2013年9月2日月曜日

新しい工房















坂の上から街が見えてはっとした。

眼下には地平線まで延々と大阪の街が広がっている。
あそこで一際高く見えているのは梅田のビル群だろうか。

「コンクリートでできた醜い景色だな…フフフ……」
と昔なら言ったかも知れないけれど、
「綺麗なものは綺麗なんだからしょうがないじゃない」
と想えるくらいには自分に素直になった。
たとえそれが細部が見えないからこその美しさだとしても、醜いものを内包した美しさだとしても眼下に広がるそれはやはり美しい。

この街の名前は大阪府箕面市という。
滝と紅葉が有名な観光地で、週末にはハイキングに森林浴に、自然を求めて都心からたくさんの観光客が訪れる。

夏の始めにこの土地で家を貸していただいた。
新しい工房として使う為だ。

それから約3ヶ月。
ジャングルと化した庭と格闘したり、ひっきりなしに訪れる猫達と縄張り争いをしたり、家に色濃く残る記憶と対話したり、新しい記憶をそこに置いていったり。
少しずつ新しい工房はかたちを見せ、先日やっと活動を再開する準備が整った。

身の置き所に迷ったり、庭に猫が来るたびにそわそわしたり、まだ馴れない部分は多いけれど、今は起こること全てに可能性が隠れているからきっと大丈夫。

坂の上から大阪の街をひとしきり眺めた後、後ろを振り向く。
山が風を受けて、よっこらしょと体を動かした。

ここは狭間の街。
コンクリートの灰色とも、山の緑とも違う街。

どうにも落ち着き処が無くて、なんだか自分のようだと思った。

どこかで新しい花が、身動ぎをした。