2014年7月28日月曜日

旅の記録 - 僕にとっては出来過ぎた、充実した一日の記録 -



東京に着いたらまず御徒町に行った。
御徒町は相変わらず、雑然と、そして人間臭く、そこに存在している。
多慶屋の前の交差点はこの町の空気を凝縮したみたいだ。
数え切れない程の足音、車のクラクション、音にならない衣擦れの音、幾重にも重なる信号待ちの人達。
自転車のおじさんが、蓋の開いてない缶コーヒーを落とした。

自分の周りを360°囲む雑踏。
久々のそれを楽しく感じながら、いくつかの用事をのんびりとこなした。



東京駅に荷物を置いて、目黒洗足の靴工房Co.&Kokoroneさんへ。
思ったよりも随分、駅から近い。目と鼻の先だ。
いい具合に時を経た、コンクリートの四角い箱。チェレステブルーに塗られた階段を二階へ。

驚かせようと思い、連絡をせずに訪問。 
うおっ!なんで?!という、リアクションを期待するも、ご夫婦二人ともびっくりし過ぎて言葉を失っている。
予想外のリアクションに、い、い、いや〜、ははは…とキョドリながら、久々の再会を果たした。

陽の光が柔らかく入る、工房のショップスペースで、久々にゆっくりと話をする。
雪国生まれのご夫婦は二人共、真面目で、芯が通っている。
こんなに靴に対して、真剣に、真摯に向き合っている人達を僕は知らない。
出来の良い弟がいたら、たぶんこんな感じだろうな。
楽しくてのんびりした時間が、流れていく。

僕のあまりにも汚れた靴を、見るに見兼ねて磨いてくれた。
新しい発見。靴が綺麗になると気持ちがウキウキする。
蜂のロゴマークが入った靴クリームを買った。
お二人共、次の日からイベントという忙しい時に、どうもありがとう。
次は連絡してから行きます…たぶん。



目黒線に乗って目黒まで行ったら、恵比寿まで散歩。
僕にとって、大切なお店へ。
そのお店には数える程しか行ったことが無い。それどころかまともに買い物をしたことすら無い。
けれどそのお店での記憶は、延々と流れるコマ送りの映画みたいに、常に心の中の何割かの場所を満たしている。
久々にそこに並べられた様々なものを見ていると、なんだか泣きそうになった。
古い道具を手に取ると、人の手を握るように温度が伝わってきた。
この店があって、僕は幸せだと思う。
いくつかの古い道具を買って帰った。



あらかた、行きたいところにも行けたので東京駅に戻る。
待ち合わせまでしばらく時間があったので、新丸ビルへ。

上の方の階に、キャッシュオンでビールが買えて、テラスで適当に座って飲める場所があったはずだ。

ハイネケンを買って、夕暮れ時のテラスに出た。
人もまばらで、気持ち良い。
向かいの高層ビルから、皇居の方まで見渡せる。
夕暮れ時の山には敵わないけれど、これはこれで美しい。やっぱり。

待ち合わせた友達と、昔この辺りでバイトしていた想い出を辿るように、ご飯を食べて、お酒を呑んだ。
一緒に働いたのは、20代後半くらいの時だったけれど、それは確かに青春だったなと思う。
想い出話に盛り上がるのは歳の証拠かもしれないけれど、想い出話が増えていくのは決して悪いことじゃ無いような気がする。



楽しい時間を過ごして、今日の宿へ。
少々呑み過ぎて、ぼうっと車内を眺める。
今日は出来過ぎた一日だった。
ふとそう想った。

旅の記録 - 特に意味の無いイメージの羅列 -




こだまの旅   - 大坂から東の都に至るまで -



「木曽川」

景色の映る、川幅の大きな川に行きたいと思った。

川の色は空と見分けがつかないような深い碧でも、空を拒みながらもその姿を映さずにはいられない暗い翠でも良い。

川面は出来るだけ、凪に近くて、それは川というよりも途方も無く大きな湖のようであれば、尚更良い。

低木が水の中に沈むように、浮かぶように点々とするその場所で、ただ川と空を眺めていたい。
時間も境界もあたまの中でぐちゃぐちゃになるような、曖昧な世界を僕は望んでいるのかもしれない。



「遠州灘」

防潮林が延々と続いている。

あの向こうは遠州灘だ。

こんな薄曇りの日の遠州灘はきっといつもより綺麗だろう。

多くも少なくも無い太陽光パネルが、まるでビニールハウスか何かのように眼下を流れていく。

そういえば遠州灘の端にも風力発電の大きな羽根が回っていた。

防潮林の途切れた所にある、あの橋はきっと1号線だろう。



「掛川 チェレステブルーの町」

チェレステブルーは、まるで蛇のように、長く尾を引く飛行機雲のように、線路脇の町に線を引いて行った。

駐車場の金網で、道路に架かる小さな陸橋で、その余りにありふれた褪せた青緑は、色を繋いでいく。

どこまで線を引くんだろう。

唐突に線が途切れた集落で、ポツリとチェレステブルーの屋根が見えた。

民家の上でその色はすでにありふれた色では無く、線の終着点であるかのように、通り過ぎる僕を待っていた。



「静岡に向かうトンネルで」

随分小さなトンネルが、山の中に並んで穴を開けていた。

あの小さなトンネルには、どれ程小さな電車が通るんだろう。
きっとスピードは出せない。
身体を揺らすとあのトンネルには入れない。

斜面に作られた茶畑でおばさんが、一生懸命働いている。

森の中の道路はそのままでトンネルみたいだ。

トンネル
トンネル
トンネル

視界が急に暗くなって、音は一際大きくなった。
こだまもトンネルに入ったみたいだ。

ここからはトンネルが増えるのかもしれない。



「谺」

山が谺を返す。

川が谺を返す。

畑が谺を返す。

山間の集落が谺を返す。

土から生えた世界で延々と谺は跳ね返り、原始の音を鳴らし出す。

祝宴はしばらく続いた。

やがて景色は、ビルばかりになった。
石で蓋をされた世界を、谺はただ音も無く通り過ぎて行く。

僕は窓の外に興味を無くし、カバーの破れた小説を読み始めた。

一時間もすれば、東京だ。

身じろぎした視界の端で、熱海の海が顔を出していた。

2014年7月17日木曜日

また八王子に行きます。























それはまだ、僕が東京に住んでいた頃の話。

都心から、青梅へと引っ越した頃のことである。

青梅で始めて手に入れた愛車は「八王子ナンバー」
なんで八王子なんだよと、ぶつくさと呟やく。

その頃の僕は、実をいうと八王子が苦手だった。
青梅から少し南に下ったところにある八王子。
同じ東京の外れにあるにも関わらず、のんびりとした田舎町の青梅とは対照的に、八王子は地方都市という雰囲気で、なんだか、ギラギラしたイメージだった。

八王子ナンバーの車にも乗り馴れてきた頃、そんな行くことも無いだろうと思っていた街に、突然縁ができる。

八王子のうつわ屋さん、atelier yorimitiさんで作品を取扱っていただけることになったのだ。

始めての納品は、直接お店に伺った。
そのお店は八王子の大通りから少し外れた通りで、大きなショーウィンドーに、暖かい灯りを燈していた。
なんだかこの通り自体が僕の抱いていた八王子のイメージと随分違う。
チェーン店がギラギラと軒を連ねる駅前と違って、そこかしこから町の小さなお店の息づかいが聞こえてくる。
僕はyorimitiさんの扉を開く。

それからの八王子は暖かい想い出に溢れていた。
yorimitiさんの店内に大切に並べられた、好きの詰まったうつわ達。
企画展に遊びに来てくださった八王子の暖かい人達と過ごした時間。
お店のそばのたこ焼き屋さん。
山の中のほうとう屋さん。
…思い出すと楽しかった想い出が次から次へと溢れ出してくる。

その後、僕は東京を離れ、関西へと引っ越すことになったけれど、ふとした瞬間にその町や人のことを想い出す。

ある日僕は、左手に真新しい「神戸ナンバー」のプレート、右手にはドライバーを持っていた。
引っ越しに伴なう、車の登録変更というやつだ。

ボロボロになったネジを回し「八王子ナンバー」のプレートを外す。
プレートを眺めながら僕は呟いた。

「変えたくないなあ」

八王子は僕にとっていつの間にか大切な場所になっていた。

「また遊びに行きます」

くたびれた八王子ナンバーのプレートの奥で、いくつもの灯りが優しく揺れていた。


2014・7・19(sat) 〜 7・26(sat)
atelier yorimiti
『yuta × Reinbow Leaf  二人展』


atelier yorimitiさんは9月末をもって八王子での営業を終えます。
(半年〜1年程の休業期間の後、移転オープン)
その最後の企画展に参加させていただけることになり、心からうれしく、光栄に思います。
青梅のガラス作家さん平岩さんと共に、また八王子の皆様と楽しい時間を過ごせるのを、楽しみにしております。
是非遊びにいらしてください。



2014年7月6日日曜日

日々を振り返って。

随分と長いこと更新を疎かにしてしまいました。
少し長めに日々を振り返って。


5月。
クラフトフェアまつもと。

会場端にひっそりとある、小道にできた三角州。
躑躅の綺麗なその場所で、二日間の出展を楽しみました。

聞いた話によると同じ場所に去年は、友人の靴屋さんが出展していたそうな。
お互い端っこ好きそうな顔してるわ…と失礼極まりないことを思いながらニヤニヤ。

初詣並みの人の多さに、なかなかゆっくりとお客様とお話することはできませんでしたが、yutaの作品をたくさんの方にご覧いただくことができました。
蒸し暑い二日間にも関わらず、会場にお越しくださった皆様に心より御礼申し上げます。

また、端っこの方でお待ちしております。

6月。
原宿にて林拓児さんと二人展。
夕顔さんに食事会をしていただける贅沢。

林さんのうつわ、夕顔さんの料理、どちらも耳が痛くなりそうな程に静かで美しい。そして美味しい。
yutaのものづくりで強く意識している、静寂の美しさが揺るぎなくそこにある。
青梅の身を切るような凛とした寒さを想い出した。

嗚呼…あしたばご飯が食べたい。
帰りの新幹線で呑んだ缶ビールが最高に美味しかった。

展示をご覧いただいた皆様、そして食事会にご出席いただいた皆様、ありがとうございました。
またお会いできるのを楽しみにしております。

そして、7月。
これから始まる、atelier yorimiti 二人展。
東京八王子の大好きなうつわ屋さん。
詳細は改めて。